遺言では財産の残し方を遺言者が自由に決められるとはいえ、一定の相続人には遺留分が認められています。
遺留分を侵害した遺言を書くことはできますが、後で遺留分侵害額請求があれば遺言どおりにはなりません。
遺留分侵害額請求の過程で争いが生まれ、お金の問題は解決しても人間関係は元に戻らなかったという例が実に多いです。
やむを得ない事情のある場合を除き、遺言は遺留分を侵害しない範囲で作成すべきでしょう。
それには遺留分について正しく理解する必要があります。
改正民法での遺留分制度
令和元年7月から施行されている改正民法では、
遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行うことで、財産を多めに受け取った人に侵害額に相当する金銭債務が生じる
と定められています。
遺留分権利者と遺留分侵害額の算定
遺留分が認められるのは、きょうだい以外の相続人です。
基礎となる財産の価額の算定
遺留分の算定にはまず、遺留分算定の基礎となる財産の価額を求める必要があります。
遺留分算定の基礎となる財産の価額=
相続開始時のプラスの財産の価額
+遺贈又は贈与の価額
-マイナスの財産
生前贈与について
原則として、相続人に対する贈与は10年間、それ以外の者に対する贈与は1年前までを計算に含めます。
ただし例外的に、遺留分権者に損害を加えると知ってした贈与は時期に関係なく計算に含めます。
また相続人に対する贈与については、
- 婚姻のため
- 養子縁組のため
- 生活の資本として
のいずれかで受けた贈与に限り、計算に含めます。
遺留分の算定
遺留分算定の基礎となる財産の価額を求めたら、以下の遺留分割合を乗じて遺留分を計算します。
- 直系尊属(通常は親)のみが相続人のときは、1/3
- それ以外のときは、1/2
相続人が複数いれば、この割合に法定相続分をさらに乗じて、各自の遺留分を算定します。
遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×遺留割合×遺留分権利者の法定相続分
遺留分侵害額の算定
遺留分侵害額=
遺留分
-遺留分権利者が受けた特別利益
-具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額※
+遺留分権利者が引き継ぐマイナスの財産
※遺産分割の対象となる財産がある場合
遺言書作成時の遺留分の算定
上記のように遺留分は相続発生時点の数字で計算されます。
なので、遺言書の作成時には正確な遺留分は計算できません。
そこで遺言書作成時から相続発生時までの変動を予想して織り込んだり、遺留分を侵害しないよう保守的に計算するといった工夫して、遺言書に書く財産の分け方を決めることになります。
遺言書を作ってから時間が経過したり、財産に大幅な変動があれば、遺留分も増減します。
当初は遺留分を侵害しない遺言だったはずが、結果的にそうではなくなる危険があります。
遺言書は作りっぱなしにせず、折に触れて見直すのがよいでしょう。