生前贈与を遺言書でどう考えるか?

皆さんの中には、留学費用や結婚の持参金、住宅取得資金の援助といった形で家族に生前贈与を行っている人がいるかもしれません。このような生前贈与の存在は、遺言書を書くにあたって、どのように考えたらよいのでしょうか?

「生前贈与なんて遺言とは別なんだからわざわざ考える必要ないんじゃない?」と感じるかもしれませんね。一方で、生前贈与をたっぷりもらった子とまったくもらっていない子とで相続する額が同じなのは不平等、と感じる人もいるでしょう。

実は民法でも、具体的な相続分は生前贈与を考慮して算出するのが原則とされています。生前贈与は相続財産の前渡しであり、相続人間の公平を図るためには生前贈与を考慮すべきである、というのがその理由です。

この原則に従うと、遺言を書く際には、生前贈与を財産に足し戻した上で分け方を考えることになります。これを法律用語で特別受益の持ち戻しといいます。

もしあなたが、この原則の通り、生前贈与を考慮した上で遺産の分け方を決めるのが自分と家族にとってもよいと考えたのなら、遺言書は生前贈与を考慮した内容で書くのがいいでしょう。

その気持ちが相続人に伝わるよう、遺言書の中に次のような文言を入れておくと相続争いを防ぐ効果が期待できます。

付言事項
太郎には住宅購入資金を援助しましたが、次郎にはこれまで何も援助していません。その分も考えて兄弟の相続が公平になるようにしました。この趣旨をよく理解して、私の遺言を尊重してください。
これは原則通りなので、本文に入れなくても付言に書いておけば十分です。

一方で、遺言では生前贈与を考慮したくないという人もいるでしょう。遺産をどう分けるかは個人の自由ですから、生前贈与を考慮しなくても問題ありません。別に原則通りでなくてもいいのです。家庭によって事情は異なりますし、必ずしも公平に分ける必要もありません。

生前贈与を厳密に考慮するのは実際上難しいので、生前贈与はすべてチャラにして残っている財産を分けたほうが後でトラブルになりにくいと言う専門家もいます。

生前贈与を考慮しない場合は、持戻しを免除する旨の文章を遺言書に入れましょう。原則とは異なるため、付言ではなく本文に書いたほうが安全です。

遺言者が生前に太郎に贈与した住宅購入資金については、特別受益としての持戻しを免除する。
なお、遺言の中ですべての財産について相続させる人を具体的に特定しておけば、この文言は記載しないでも構いません。この場合、通常は、生前贈与について持戻し免除の黙示の意思表示があったものとみなされます。

 
遺言書で生前贈与を考慮するかどうかは、結局、遺言者の考え次第です。

正解はありませんので、自分の希望や家族の気持ちに照らしてどちらにするか決め、それに適した文言で遺言書を書くようにしてください。